出産の記録 (5)

 15:00
 時間はよく覚えていないけど、助産師Tさんに勧められてトイレと内診に行くことに。この部屋は他のLDRなどと違ってトイレがない! 廊下を歩いて、自動ドアの外のトイレまで20mくらい。こうしたトイレに行くことや歩くことは、重力を使って赤ちゃんが下がってくるようにする作用があると私も理解していた。
 だんだん陣痛の痛み方も変わってきていて、立って歩くとおしりの穴と腰全体がブルブル震えるような痛みで、助産師さんはおしりの穴を下から押し上げるように手で支えて、私の陣痛を逃してくれた。確かにそうしてもらうと楽だった。歩くときは夫につかまりながら。陣痛の合間も、痛まなくても痛みの余韻を引きずるので苦しくってまともに歩けない。
 トイレの中まではさすがに誰も付き添ってくれない。これまた不思議で、トイレに入っている間は陣痛が来なかった! そしておしっこもそれなりに出た。もう、こういう、うんちの出口、おしっこの出口、赤ちゃんの出口がどういう仕組みなのかはさっぱりわからない! トイレに入っている間、何分も私が痛がらないので、「逆に不安になりますね」と夫が言っているのが聞こえた。
 そして内診台のある部屋までさらに歩いて移動。パンツを脱ぐのもたいへん。内診台ではTさんが「何かした」。何をしたのか分からない。ただ何かをして、そして痛すぎて叫んだ。Tさんから「もう9センチ開いてますよ! 破水をまだしていないですね。破水をしたらぐっと進むと思うんですけど」。そして私が低身長なので赤ちゃんが骨盤を通れるか心配していたことを知っているので、「赤ちゃんの頭はすぐそこに見えてますよ! 大丈夫、赤ちゃんちゃんと通れます!」と力強い言葉をかけてくれた。大丈夫、帝王切開しなくても、産める!(ちなみにこの病院は低身長でもレントゲン検査はギリギリまでしない)
 Tさんはこのあと別件があり、分娩まで付き添ってもらうことはできなかった。

 15:30
 部屋に戻り、再び夫と母と3人になる。
 Tさんは、あとは赤ちゃんの頭がはまってくること、そして破水だと言っていた。どうしたらそうなるんだろう。また椅子に座ったりしているが、自分が疲れてきて息切れしてきている。「疲れた……」と夫に言っていると、やってきた助産師さんが一度横になって休むといいですよ、と言う。うーん、そうなのかなと思いながら、昨夜横になって陣痛を耐えていたときがすごく痛かったので不安に思いながら、なんとか分娩台によじのぼる(この病院はフリースタイル分娩を推奨しているのでセミダブルくらいの大きく平らな可変式ベッド)。
 横になると、これまた意外なほどリラックスでき、陣痛は何分も来なかった。そして私は合間に確かに眠った。考える余裕すらなかったけど、昨夜からほとんど寝ていないので。30分くらい横になった気分だけど、実際は10分15分だったと思う。二度ほど、左右で夫と母親に見守られながら、うとうととした。夫と母親がどうでもいいことを雑談しているな……とぼんやり思い、こっちは必死で休んでるんだから黙っててよ、などと思っていた。助産師さんのアドバイスで一時リラックスできたことは、最後まで分娩を頑張れたパワーになった。
 横になっている間にも二度ほど痛みが来て、それはものすごく痛かった。耐える声は悲鳴になっていた。

 15:40
 のどが渇き、おなかもすいた気がして、起きて、何かを飲んで食べた。桃の味のジュースと、りんご風味のパンだった気がする。本当は私が食べたいものはそれではなく、桃の味のジュースもあまりおいしいと思わなかった。
 横になっていたとき何か漏れた気がして、それが出血か破水か分からなかったことと、またトイレに行ったらお産が進むかもしれないと思い、起きてまた20mほど先のトイレまで歩きだした。陣痛がかなり強い。たまらずコールして助産師さんに来てもらい、おしりを押し上げてもらいながら歩く。すがりついていた夫の腕を私が腕力すべてで握りこんでいたので、夫はかなり痛かったらしい。
 ちなみに入院してから何度か「オンギャー」という赤ちゃんの泣き声を聞いていた。どんどん産まれていっているんだ。「次は○○の部屋でその次は●●の部屋の順番だと思う」などの助産師さんの声も聞いた。陣痛に耐える他の産婦さんの声は、自分の声ばかり聞こえていて、あまり耳に入らなかった。
 トイレに、また一人になるのを不安に思いながら入る。今度は便座に座って用を足したあと、痛みが来てしまった。「あー、痛い!」と声を出したとき、「ボフン」という音のような衝撃のようなものが。あ、これが破水かも。外から「大丈夫ですかー、出てこられますかー」。ガクガク震えながら扉を開けて破水したかもと告げると、部屋に戻って確認しましょうとのこと。
 戻る最中もかなりの痛みが襲う。もう、顔も上げられないし目も開けていられない。