数学者の取材をすると以前書いた。正確には数理科学者と書くべきだったのだけれど、脳の情報処理のしくみをカオスという無限を内包した超越的ともいえる概念から40年来探求している教授の原稿化に、いまだに取り組んでいた。教授の研究は私が担当した中では抽象度や難解さが別格で、どんなに言葉や文字を追っても到底理解できなかった。それでは仕事にならないので、何とかして書き終えた。
この先生は熱心なだけでなく丁寧でマメでもあるのだろう、分からない言葉を先生の名前と共に検索するとPDF文書や記録が多くヒットする。研究会や市民講演会、サイエンスカフェなどで話した内容が先生の手で講義録になって、何十個とある質問に対して長文で回答した結果が公開されているなど。研究の世界に閉じない姿勢がすごい。
著書は難しくてはじめほとんど読めなかった。読めるようになってくると、海外の研究者との笑い話とか、例えばDNAの二重らせん構造で有名なクリックに対して「歴史上の人物ではなくまだ生きている」という説明を加えたり、カオスに批判的な研究者に対して「冷静には書けない」と感情をちらつかせていたりすることが面白くて、先生のファンと言って差し支えないくらい先生の言葉を読んだ。
同じような感想はネット上のレビューでもよく見かけ、「ものすごく重要なことが書いてあると思って年に一度でも読もうと開くけれどいつも理解できないが満足している」とか。笑
進行が遅れているので覚悟して教授にメールを入れた。これだけの文書を読んで理解しようと努めているが私にはとても難しい仕事だったということを書き添えたら、「大変苦労され読み込んでおられるようで感謝しています。原稿を楽しみにしています」というお返事が数時間のうちにあった。これにまた感動した。
松岡正剛に書評で「天才なんだと思っている」と書かれるような教授は、モチベーションの塊で、だから知りたいという気持ちにも丁寧に答えてくださった。理解ができなくてもまた先生の話を聞いてみたい。という私の仕事のお話。
▲カオスの構造の中に埋め込まれているフラクタル図形を葛飾北斎が描いていた、という話。エッシャーの「天使と悪魔」という絵にもフラクタルがあり、数学的な証明を見せてくれた。