アート、文学、作品をつくるということ

まだ取材原稿を仕上げている。あるアーティストが、自らの作品を制作した思いについて「とても個人的なことなんですが」と前置きして、母子をテーマにしていること、なぜ母子をテーマに作品化しなければならなかったのか、生きていくのにその作品が必要だったことを語った。思いを作品化するのに18年かかったという。「みんないろいろあります。何もない人なんていないと思います。何があるか分からないからこそ、アートとか必要なんですよね。みんながハッピーだったら、それを小説に書く必要もアートにする必要もないわけで」としみじみ言われた。

文芸評論家の取材でも、「小説家とは小説で表現せずにはいられない人間がなる、私はなんで小説なんか書いているんだろうと思う人がなるのだ」と聞いた。私は昨年金原ひとみの母子をテーマにした『マザーズ』を読んで苦い思いを抱いたけれど、「あれは文学なんでしょうか」と聞いたら「あれこそ文学です。言葉を書くことで自分の居場所を見つける、自分の存在意義を見出すっていうことです。文章を書けば、自分がこんなことをもだもだ考えながら生きていることに価値があるって言えるわけです」と断言された。

表現をする人間、作家という人間は、その表現によって自分という人間を知り、自分の生き方を見つけるのだそう。そして受け手は、その文章を読んだりアートを見たりして、やはり自分を知り自分を見つめ直すことができる。
前述のアーティストは「世の中の人は心の中のもやもやをどう処理しているのかって逆に思う」と言われた。私自身はそれが登山であり、なぜ山に登るのかと問われれば「自分のことが分かるから」と答えてきた。その答えは何年も前に気付いたことで、それが真であると直感か確信か間違いなく思う。登山が好きな理由が、作家が作品づくりに取り組む心理と重なっていたことに納得する。

そんな取材原稿に向き合っていたら、ザ・コアーズの一番好きな『Unplugged』というアルバムにある「Everybody Hurts」のメロディーが頭に浮かんだ。歌詞が気になり検索すると元はR.E.M.というオルタナティヴ・ロックバンドの1992年の楽曲だった。男性が最も涙する曲1位らしい。歌詞の最後は、「ときに人は傷つくのだ。みんな泣くのだ。だからくじけずにがんばれ」。メロディーがまたいい。昔というほど古くないけど、普遍的なメッセージなんだろうと思ったので、ちょっと書き残してみた。

現代美術の作家、森口ゆたか先生のHUGというインスタ レーション。本当に子どもを抱きしめるということを考え た作品。
同じく森口ゆたか先生のtouchという作品は、親子の手が登場するインスタレーション。学芸員の解説がHPで読める。(http://yutakamoriguchi.info/bibliography/201404tokushima_yoshihara.html