不完全なイグルー

実際の山行で初めてイグルーを作って泊まったけど
不完全なイグルーになってしまった、の巻

先々週のこと。(長文なり)米山さんに指導を仰がないといけないと思いつつ、このイグルーをどう解釈していいのかモヤッとして、報告できなかった。「失敗作」というのか、いや問題なくビバークできたのだから失敗ではないか。でも教わった通りのイグルーは作れなかった。恥ずかしい。雪質の問題も大きいけど、「どんな場所(?)でも積雪が50cmあれば作れる」のがイグルーだと教わったのだから、イグルーが完成させられなかったのは私の技術不足じゃないか。

「不格好なその場しのぎのイグルー」に泊まることになったいきさつは、テキストで以下に記録。


1.とにかく雪山でイグルーに泊まろうと思った
今年は再び、自作イグルーに泊まるぞと思うけど「イグルーに泊まるための山行」の機会を得るのが簡単じゃない。雪山泊をシーズンに何回もやれないので、となれば通常の山行で、チャンスがあればイグルー泊してやろう。「やれたら」くらいに思っていたけど、あとから思うと「何が何でもやる」という意思だったかも。

2.イグルー泊は、仲間の理解や同意を得るのが難しい
テント泊しかしたことない人に、「イグルーで泊まれるから、テントはいらないよ」と言って「いいね」なんてなるわけがない。だから今回も通常通り、エアライズ2を準備した。これで1.6kgだ。さらに今回はのこぎりを2本用意した。1本は先輩に渡す予定だ。これで500gくらい

3.どこでイグルーを作るか
行き先は中央アルプスの将棊頭山~木曽駒ケ岳。もともとは霞沢岳西尾根の予定だったけど、土日ともに悪天で終わる可能性が高かったので、より好天が期待できる山域に切り替えた。そのとき、麦草岳~木曽駒ケ岳も候補だったけど、将棊頭山のほうがイグルーにはよさそうと思ってそうした。
東京でどっと降雪したあとの週末で、中央アルプスも登山口から真っ白に積雪が残る。もし樹林限界まで出られたら、吹き溜まりあるかもだし、稜線のほうが藪がなくてイグルー作りやすそうだと思ったが、登攀具がないとはいえ全装を担いで標高差1800m(将棊頭山まで)はあまりに厳しく、標高2300m付近のやっとこ平というシラビソ林で、時間的に行動を打ち切ることに決めた。
歩きながら森を観察していると、笹だらけ。積雪は50cm以上はあるけど、こんなに笹がひょいひょい出ていたら、雪のブロックなんか作れるイメージわかない。笹の出ていない雪だまりはあるんだろうか。

4.やっとこ平の雪
15時頃、やっとこ平と思われる平原着。あっちの平とこっちの平と、2か所を見比べて、より積雪が深く、開けた雰囲気のほうを適地と見定めた。積雪は腿まで潜るので、けっこうある。でも雪が柔らかすぎる。こんな雪でどうやってブロック作るんだっけ。そっと扱えば割れないかもしれない、まずは思い出してやってみよう。
エリアを決めて、中心にトレンチを掘る。それから大きな雪ブロックを切り出す。取り出して置く。ブロックはエッジが立たない感じで、柔らかく、すぐにじゃがいものようになる。手前に寄せようと思っても、硬さが足りないので安定感が全くない。それに自分の足で、どんどん雪に足形の凹みができてしまい、いい形・大きさのブロックが切り出せなかった。
手前に寄せようと思っても、寄せられない。1段目を並べてみて、「天井まで塞ぐのは無理」とすぐ分かった。イグルー6作目の直感かな。

5.天井はフライシートで
掘り下げた雪は、1段目はふわふわすぎて形も悪く、ろくに使えない感じで、2段目はぎりぎりイグルーに活用できるくらい、3段目は笹がツンツン出ていて、カスカスで割れるやつだった。つまり積雪は1mくらいあるけど、最下段は笹混じりだった。
イグルーの形は、中心に寄せられなくて、1段目も2段目も、ほぼ真上にブロックを載せる形。サイロ状だ。一応、こうなったときの次の手を考えていた。その考えは甘かったとあとでわかるけど、テントポールをV字に折って梁として渡し、その上にフライシートをかぶせて屋根にした。フライの端に雪ブロックを置いて重りにした。(スキー山行だとまた違うだろうけど)
やってみると、雪ブロックが不安定かも。風で内側のフライの上に落ちてこないか心配だ。なるべくずっしりしたブロックを置き、隣同士が雪で結合するようにした。また、フライシートの細引きを外に張って、割りばしのペグを雪に刺して、フライにテンションかけて屋根が落ちないようにした。

6.入口が塞げない
同行の先輩はイグルー耐性ゼロなので、もぐらのような入口では酷評されると思った。また米山式イグルーのように掘り下げた内側の壁からブロックを切り出すのが不可能だったため(地盤沈下して壁が崩落しそう)、空けておいた入口部分からもブロックを切り出した結果、大きな出入口にしてしまった。これがうまく塞げなくて困った。
いい硬さの雪質なら、ブロックでも塞げるだろうけど、シート状のもので蓋をするにしても、「シートをどうやって固定するのか?」やはり雪ブロックや、何か重しや細工が必要だ。うまい妙案が浮かばない。もぐらのような狭い出入口よりも、もっと心象の悪い事態になってしまった。
検討の末、銀マットを内側から立てかけて蓋にしたけど、食事をしている頃から風が強くて、ほぼオープンな状態に。銀マットに箸を突き刺して雪壁に固定するなどしても、また風で開いてしまう。とほほ

7.内部の広さ
内部の壁からブロックを切り出していないので、底面が広くない。少し壁を削っても、削りすぎたら崩落するかも。整地して、エアライズ2と同等の面積だった。屋根がドーム状に低くなるテントに比べて、上部空間が広いのはよいと思ったけど、先輩はイグルーの雪壁に慣れないので窮屈そう。

8.屋根が落ちる!?
パラパラと雪が降ってきた。サイロ状にフライシートの屋根。雨や降雪があると最悪のパターン!ということに、今更気が付いた。降雪の重量と、フライを押さえつけている雪の重りと、細引きでテンションした力、これがバランスを取っているのだ。雪の重みで天井が垂れてくる。天井が落ちないかとヒヤヒヤ。
また、中で炊事をすると気温が上がってフライの上の雪がとけ、ぽたぽたと雫が垂れてきた。雨漏りだ。拭き取ったり、フライを弾いたりして、水や雪をどけた。
幸い、風がいい感じに粉雪を飛ばしてくれたようで、夜中も雪は降っていたようだけど、ほぼ屋根に積もらなかった。結果、屋根が飛ばされることもなかった。

9.住み心地は?
以上のように、「扉が閉まらない」「屋根が飛ばされそう」「すきま風や雪が吹き込む」「雨漏り」といった、令和において昭和の日本家屋を代弁するような建築となった。しかし2月の程よい気温の標高2300m樹林帯の半イグルー。あったかかった。比較としては、1月上旬の標高2600m吹きさらしの西穂山荘テント場でのエアライズ2。こちらは激寒だった。コンタクトレンズの液すらも凍っていた。テント内部でもストーブを消すと冷凍庫だった。それでも最初1時間ほど我慢していたら眠れちゃったけど、今回の半イグルーは30分ほど眠れず、そのあとはしっかり眠れた。

初めて泊まった乗鞍岳中腹のイグルーは、3月上旬だったけど二ツ玉低気圧の襲来で暴風雪、そのうえ穴をろくに塞がない状態のイグルーで、出入口からも粉雪が舞い込んでいた。さらに何を勘違いしたのか私は厳冬期用じゃない寝袋で行ってしまったものだから、2時間くらいブルブル震えて全く眠れなかった。あのひどい寒さに比べたら、今回のサイロ状のイグルーは合格じゃないか…!

振り返ってみると、案外うまくいった? ただ入口が銀マットで、フライシートの上のブロックも見た目がいまいちだし、褒められるものだとは思えない。自分がイグルーやれるのか不安を感じる体験だったけど、居住そのものは問題なかった。うーん。やっぱりこれでよかったのかなぁ??